国語の授業 続編

国語の授業の目的は漢字を読める様になる事だけではなかった。先生は生徒達の心に希望の光をともしたかった。できない…経験から潜在意識に根付いてしまった劣等感を払拭する様な前向きに力強く生きていく力を身に着けて欲しかった。


その為に先生は魯迅や宮沢賢治などの名作を教材として使った。細かい表現も言葉も別の言葉に置き換えて、かみ砕いて読んで行く。生徒達はやがて文全体、物語全体からのメッセージを自分なりの言葉で理解して行く。

ある日、宮沢賢治の稲作挿話を授業で取り上げた。宮沢賢治は日本各地の農村を回り、農作業を手伝い農民達に読み書きを無報酬で教えて回ったエピソード集らしい。宮沢賢治は無報酬でやっていたが、その体験から得たものは計り知れなくその後の彼の作品に深く影響を与えた…という話だ。無報酬の報酬。それがメッセージとして生徒達に伝えられた。


その頃はちょうど運動会の前。生徒のHさんが運動会の800メートル競争に向けて毎日走り出した。それまでは仕事現場まで自転車通勤だったのをランニング通勤に変えた。仕事の後、疲れたきった身体で夜間中学学に通う時もランニング。勝っても何も賞品は出ないのに…。そんな毎日を過ごし、やがて運動会の日がやって来る。


今までコツコツ走り続けてきたHさんの出番、800メートルが始まった。


「位置について…」

「ヨーイ…、ドーン!」


走った。走った。Hさんは懸命に走った…。歓声が上がる。ランナー達はゴールにグングン近づいて行く。Hさんも必死に走り続けた。ゴール目指してただひたすらに。


パンパンパーン


終わった。すべてのランナーがゴールした。


結果は…、Hさんは見事優勝。ヤッター!興奮さめやらぬまま、担任の先生の元へ走って行きこう言った。


「先生、宮沢賢治の
無報酬の報酬ってこういう事だったんですね。」


Hさんの目はキラキラ輝いてたんでしょうね。


毎日コツコツとただ走り続ける事を通して無報酬の尊さを学び、800メートル走優勝の喜びを噛み締めながら大きな報酬を授かったHさん。


自らの体験を通して授業を理解したHさんについて、当時を振り返りながら先生は胸がいっぱいになって話ができなくなった。

そして最後に先生が番組で言った言葉は…

「…生徒に教えられる事もたくさんあるんですよね。」


先生が本当に教えたかったのは、魂の輝きだったのかもしれない。この番組が終わった後もしばらくの間、胸がジーンと熱かったです。
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by growinghearts | 2006-11-17 22:23 | ひとり言